消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

完全版:ウィンナーとソーセージと鉄郎

「完全版:ウィンナーとソーセージと鉄郎」
(※
本日の書き込みは、
ネットショップ「ラスタ」にて好評連載中の日替わりコラム
「今日のカトウは酔って候」の完全版記事になります)
http://www.bidders.co.jp/user/2573628

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「ウィンナーとソーセージ、何が、何が違うっていうんだぁぁ!」
鉄郎の叫びはしかし空しく虚空に響くだけだった。
大地を叩き声枯れるまで叫んでもそれが届く場所はなかった。
鉄郎が初めてなめる絶望の味だった。それは鉄の味だった。

五年後。
己の無力さに歯噛みした頃を過ぎ、鉄郎は一人前の戦士としてそこにいた。
ポーク・ウィンナー、魚肉ソーセージ。
悩んでも答えが得られないことを悟った鉄郎は考えることをやめた。
答えが手に入らないなら、力づくで奪うまで。
かつての明るかった少年は冷酷なまでに冷たい目をした男と変貌を遂げていた。

「……答えろ、ソーセージとウィンナーの違いについて、だ」
「ひ、ひぃぃ、勘弁してくれ、しらねぇ、ほんとにしらねぇんだ!」
「……ならば死ね」

今まで何度引き金を引いたことか。鉄郎は機械的にマントにしるしをつけた。
もうその数さえわからなくなっている「死人のマント」と呼ばれるそれに。
これでマク○ナルドの幹部連中はほとんど全滅したことになる。
朝マックはソーセージ、昼以降はサンドイッチと呼び分けながら
その本質に答えを出せなかったマク○ナルドを狩ることに
鉄郎は何の感慨もなかった。

今日は……ウィンナーにするか。
ウィンナーが火を通せずに食べられることを知ったのも最近だった。
茹でるか焼くか炒めるか、それしか知らなかった鉄郎にナマのウィンナーを
教えたのは女だった。

「ウィンナーは腸詰、ソーセージは腸なし」
やわらかく暖かい声で答える彼女に安らぎを覚えたこともあった。


「……じゃあ『ウィンナー・ソーセージ』はどうなるんだ」
ウソを見抜けば相手が女とて容赦しない。
哀しみの笑みを浮かべる女を撃ち抜いた時すら、鉄郎は表情を変えることはなかった。


「誰か教えてくれ……、誰か……誰か俺を止めてくれ!」
鉄郎の叫びは五年前と同じ空に吸い込まれるだけだった。


食肉加工品の大きな分類にはハム、ソーセージ、ベーコンといったものがあり、
ウィンナーソーセージは その何百種類とあるソーセージの一つである。

ネットが普及した現在であれば、鉄郎の絶望的な苦悶に希望の光が当たったろう。
だが人の歴史はいつでも哀しみの歴史である。
あの時これがあったなら、あの時こうなっていたら……
哀しい現実の前に、それは空しい可能性にしか過ぎないのである。

時代の涙に流された男。
鉄郎の墓の前には、今もソーセージの供物がとだえないという……。