消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

「君に届け」が届いた日

君に届け椎名軽穂


10巻を数ページぱらりとめくり
あぁ、やっと届いたな、と。
俺に届いたな、と。

1巻~9巻。長かった。長かったぞ。
届かなかったぞ。まったく。まるで距離が伸びない感じだったぞ。

唯一6巻だけが面白くて
これは主人公たちの物語ではなく脇役、龍とちづの話だったから面白かった。
そして6巻を読んだことで、この「君に届け」全体の問題点、
風早くんと黒沼の歩みに苛立しか覚えなかった理由がわかった。



君に届け
少女漫画の雄、「マーガレット」にて絶賛連載中の「純愛少女漫画」ということである。
コミックスにはやたらと煽り文句で「ピュアホワイト」「ピュアホワイト」と連呼される。
純真さをアピールしているつもりなのだろうが、
なるほど、「真っ白」だ。何も見えない。盲目なんじゃないのか、こいつら。


主人公の黒沼爽子は、その爽やかな名前に半して
ホラー映画「リング」の貞子さながらの陰気さと不気味さで知られた。
ゆえにあだ名は爽子。
そんな彼女が、爽やか100%FRISK みたいなクラスメイト、風早くんに惹かれて行くストーリー。
一方で、風早クンの方もぎゅんぎゅん黒沼へ惹かれて行く、もうハッピーエンドしか見えないストーリー。


なのに10巻までなにしてんだこいつら?

「行動」していないのだ。
そして何よりも、勘違いとすれ違いをひけらかす作者。
この少女漫画黄金手腕に「やきもき」ではなく「うざくてだるい」としか感じなかったのだ。

これで風早なり黒沼なりの気持ちが全くわからなかったら
「どうなっちゃうんだろう、ドキドキ」と読めただろう。
それが6巻でわかる。
意外にはっきりと自分の思いを口にする無口な龍と、
もっと意外な答えを口にしたちづ。
この二人は「すれ違い」や「勘違い」といった小手先の漫画手法に振り回されていないのだ。


もっと言うと、龍とちづは「人間」として描かれた。
風早と黒沼はマスコット、あるいは操り人形に過ぎなく見える。
私はこの主人公二人を「非実在少年少女」と呼んだ。
フィクションはフィクションでいい。
ただ、つまらないフィクションはごめんだ。そうでしょう?


9巻に至って、ついにこの操り人形たちが、自らの糸を切って動き出した。
ようやく……とちょっと疲れを感じたのはおいておいて、
ようやく「作者の焦らし、いじわる」ではなく、物語として楽しめるようになったのである。

10巻。ようやく届いたぞ。