消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

さらば、ジンオウガ

こいつを倒してしまっていいのか?

その瞬間、私は武器を持つ三角ボタンから一瞬、手を離しました。
目の前には落とし穴にはまってもがき苦しんでいるジンオウガがいます。

その姿は、恐怖と破壊の象徴だった往時の姿とは全く異なっていた。
一種哀れさえもよおすような、悲しくも弱い一つの命が、
それでも懸命に生きようとしている姿だった。


こいつを倒すことが本当に正義なのか?

思い起こせば、私の村での日々はただこいつを倒すことだけに注がれてきた。
ほぼ無一文から始めた暮らし。
見知らぬ人々。
近所に住む人達の冷たい視線。

「お前はダレダ?」
「本当にタオセルノカ?」

認めてもらうためには、ただひたすら敵を倒すしか無かった。
時には心無い住民のイヤガラセとしか思えない依頼にも黙って応えた。

「タケノコを二十本もってこい」
「いややっぱキノコ五本でいいや」
「アンタはあのひ弱なトカゲを一晩中狩ってなさいよ、オホホホホ!」

オホホホホ!!
オホホホホ!!
オホ! オホホホホ!!


ようやくハンターとしての腕が認められ、
そこそこの大物を狩る依頼が入るようになり
収入も徐々に安定、猫を食わせるのに以前ほどは困らなくなった。


けれどもそんな温泉生活に満足できるわけがなかった。


ジンオウガ


身体に雷を纏い月夜に吠えるその姿は美しくさえあった。
そうして見とれた一瞬が、私の地獄の始まりだった。
家財をすべて載せた荷馬車は紙くずのようにヤツに蹴散らされ、
そして最愛の……最愛の妻をその牙の中に失ったのである。

ヘビィボウガンを愛する気丈な女だった。
弾が無いときも泣き言言わずに採取していた横顔。
弓を勧めると火薬のニオイのしない武器など勃起しない男と同じだ、
と烈火のごとく怒ったものだった。


そんな妻を温泉送りにしたジンオウガ
こいつだけは、と追い続けていた日々。

こいつを仕留めたら、俺はどうなってしまうんだ?
俺の日々は、妻との思い出は?
もしかしたら「こいつに勝てないことが俺の生きがい」だったんじゃないのか??


しかし一瞬の躊躇の後、身体は何度も何度も繰り返してきた一撃を
哀れな生き物の脳天に叩き込んでいた。


さらば、ジンオウガ
次はもっと、強く生まれてくるんだぜ??


……わりとすぐ、「次」があるんだけどね……