消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

感想文。ヴァニラスカイ、夢と現実。

トムクルーズ主演、
スペインの映画のリメイク作、
ヴァニラスカイを友人に勧められて観た。
アイズワイドシャットと間違えながら。
(キューブリック??ってなりながら。
映画詳しくないけど)
以下ネタバレもあるので
観てない人は読まないでいただきたい。
ラストが衝撃的な作品だから。
そして、この衝撃は味わう価値がある。
名作、とまでは言わねども、
一度は観てもいい面白い作品である。


さてさて、その内容は…
映画の前半はわけのわからない構成で進む。
後半三十分くらいが怒涛の展開をみせるミステリー。
ただ前半は、ミステリーの気配はない。
金持ち青年が真実の愛にご都合的に触れていく、
甘ったるく半ば安っぽいストーリーが垂れ流される。
トムクルーズとペネロペクルス。
ジュリアロバーツの、トムクルーズへの執着が怖いくらいか。

その安っぽい展開の中にやたらと挿入される謎の場面がある。
観客はその謎のシーンに疑問を持ちながらも
最後には悲劇が来るんだろうなー、
なんて単純な想像をしながらポップコーンを頬張っている。


そこから、
突然ジュリアロバーツの怪演が始まり
観客がサスペンス的恐怖の洪水をなんとか整理しようとしてるうちに
物語はさらに一段引っくり返って
バニラ色の空の下で 大団円を迎える。
その大団円も、多くの問いかけを残しており、
ハッピーエンドとはいいがたい。

「あなたの幸せってなんですか?」

答えなど、人の数ほどありそうな問いかけを残して。



一言で言えばマトリックスである。
マトリックスはSF要素の強いアクション大作だったけど、
こちらは同じテーマをヒューマンドラマとして描いている。
あるいはテーマは異なるけれど、描き方が似たというか。


マトリックスもそうだったが、
我らの言う現実ってものが、脳の感じる刺激や信号のみだ、っと言うならば、
寝てようが起きてようが死んでようが生きてようが
なんら変わりは無いのではなかろうか。
手足を動かすことと、
手足を動かした 、と感じること。
この間にどれだけの差があるというのか。
脳が感じているだけが体験の全てなら、
安物のハイボールを最高級のスコッチと感じ飲めるなら
コストと手間がかからない方がいいに決まってる。

トムクルーズは冷凍保存と介護という、
管理コストがかかる形で夢を見ていた、
と言うのが映画のオチである。
一方のマトリックスの方は、電池として人間をエネルギー源にし、
かわりにバーチャルリアルな夢を見せていた、
というオチ。
少なくともマトリックスはギブアンドテイクが成立した良い世界に思える。

ところが、 アメリカンヒーローたちは真実とかを 大事にする。
飼いならされた現実に拒絶反応を示す。

本当のこと。
真実。
そんなものに如何ほどの価値があるのだろう。
バニラスカイのトムなんか、死んでるのが真実だしな。

トムクルーズ演じる主人公は最後に選択を迫られる。
ヴァニラ色の空の下で。
現実を生きるか、夢の中で過ごすか。


もちろん、管理されて夢見せられてるだけ、
それがあなたの人生でした、
なんて言われたらゾッとしない。
それはそう。
真実を知りたいという欲求はある。
問題は、真実を知った後だ。
二つを合わせた上で、さて、
私だったらどちらを選択するのか。

アメリカンヒーローみたいにはいけそうにないねぇ。

少なくとも。

蘇生後、夢の世界に生きられる、という逃げ道を知ってしまってる分、
辛さが増しそうだ。
苦しみがあるから幸せがある、
のは事実として、
だからと言って苦しみを甘受できるほどマゾヒスティックではない。
その度に思い出すだろう。
あの時、目を覚まさなければ。
夢の中にずっといられたら。

オープン ユア アイズ。

この映画の原題であり象徴的なこの呼びかけに
我々はなんと答えるのだろう。
毎朝のいつもの目覚まし時計に対して
どんな呪いの言葉を吐いているだろう。


寝ていたい。あと五分、もう少し、
いやいっそ、
ずっとこのまま…

「あなたの幸せって何?」

ジュリアロバーツが劇中で問いかける言葉に、
ついにトムクルーズは答えずに終わる。
それは、答えを観客に任せたとも取れるしけ結局、見つけられぬまま、
ただ真実というだけでヴァニラ色の空へ飛び降りたのかもしれない。
誰が言えるだろう。
正しい生き方。
正しい人生。
本当の幸せ。

そんなあやふやなもの、
明日には変わってしまうかもしれないものに
一つの答えを出すなんて。

目を覚ますなんて。

アメリカンヒーローみたいにはいかねぇ。