消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

ハウルの動く城/ジブリ(宮崎駿) その8

髪の毛の色が変わってしまったハウルは、寝こむほどに意気消沈していた。
たかが髪の色で、と最初に見た時は思ったけれど、
髪の毛の色、何かしら「派手さ」「誠実さ」の対比のようなものが
この物語の中には色濃く流れていて、
生まれついての黒髪に戻ってしまったハウルは、
無防備に弱い自分自身をさらけ出してしまっているモードになってしまっているのであった。

金髪の貴公子然としてオシャレに身を固めていたのは、一種の鎧だ。
どこかしら、この物語の中では、派手さ=美しさ=虚構、という公式となっており
その虚勢、虚飾の中で人々がぶつかり合って生きているように見える。

その中で、オシャレやパレードには目をくれないソフィーという存在は
おそらくは純粋無垢な理想像の偶像であり、
虚飾を剥がされて同じく黒髪に戻ったハウルは、
そのソフィーの強さに導かれて自らを強くしていくのでもある。

鎧の剥がされたハウルは実に弱々しい。
そして、明らかにソフィーに甘えていた。
カッコつけの日本最高レベルのイケメン、木村拓哉(声)が
他人に見せる壁を取り払った、弱々しく甘えん坊な自分自身を見せる。
これは女子にはたまらない、距離感かもしれない。
(この二面性において、私はハウルジブリ映画NO.1 のイケメン、と呼ぶ)

ベッドにて寝込むハウルは、ソフィーに胸の内を明かす。
実際、強がっていたものの、彼は恐ろしかったのだ。おっかなかったのだ。
彼の自室にはところ狭しと呪いの品々、結界を作るオブジェと方陣
敷き詰められていた。

荒地の魔女については、ちょっとからかってしまっただけなんだ」
若気の至りとしてハウルは主張する(今でも十分若く見えるが)。
「そうしたらすごくおっかない人だった。僕は見つからないようにこうして
部屋中に呪文をかけて逃げまわっているんだ」

ただ、ハウルの呪文は禍々しいというよりはハデハデしく、
どこか可愛らしい。
看病しながら話を聞いているソフィーにしても、
どこまでが本当でどこまでが冗談なのかわからない。
髪の毛の色で一喜一憂する大魔法使い。
荒地の魔女から、赤色と金色の派手な部屋で逃げまわっている若い魔法使い・・・。

実はハウルが恐れる相手はもう一人いた。宮廷魔術師サリヴァン
おそらくハウルの部屋はそれら魔法使いから逃げ回るための、
本当に怯えたシェルターであるのだろう。
といって、全くかなわないというほどの実力差とは、
ハウル自身も思っていまい。
「おっかないおばさん魔法使いたち」
そんなところだろう。

だから「ソフィーが行ってくれよ!」
サリヴァンの下へ送り出せるくらいの「怯え」なのだろう。


王都からの招集。
それは他ならぬ、戦争への加担要請である。
ハウルは、王都側には「ペンドラゴン」の名で知られる著名な魔法使いであった。
故に、国家の一大事である戦争において、無視無関係を決め込むことを王政はゆるさなかった。
ペンドラゴンとして王都に招集されたハウルは、
黒髪になった甘えついで、鎧のはずれた弱々しい自分の勢いで、
ペンドラゴンの母として王都に行ってくれるよう、ソフィーに押し付けたのである。


一体全体なんだってあたしが、
と思いながら出かけていくソフィーは、もう五十代前半、
四十代くらいの勢いだろうか。
ハウルの心、真相に触れる毎に若返っていっているようである。
杖をついて歩くにも不自由だった面影はない。
ハウルの調子のいい甘えっぷりに毒づきながら、王城へむかうこととした。

その道中、王城の広場で、ソフィーは珍妙な出会いを二つする。
ひとつはへんてこな犬(?)。
明らかにそんじょそこらの犬とは異なるそいつは、
実はサリヴァンの手下のスパイ犬なのだが、
ソフィーはその犬をハウルだと思った。
犬に化けて付いて来るつもりなのだ、と。
ヘンテコな犬である。

そしてもう一人。
ソフィーに老化の呪いをかけ、
この珍妙なハウルとのいざこざに巻き込まれる元凶そのもの、
荒地の魔女の登場である。
国内の強力な魔法使いとして、荒地の魔女とペンドラゴン、
両名が召還されたというわけである。

荒れ地の魔女に毒づくソフィー。
それはそうだ。15歳から90歳にされたのである。
怒りでどうにかなってしまいそうな相手であるはずである。
だが、不思議とそこまで怒っていないソフィー。
彼女は、あまり人を恨んだり遺恨に思ったりすることがないようである。
倍賞千恵子(声)らしい、お人好しさというか、
受動的な生き方というか・・・それはまぁ、「男はつらいよ」の
寅次郎の妹役、さくらの面影のせいなのだけれどね。

なってしまったものはしょうがない、という感じで荒地の魔女に対するソフィー。
わりと江戸っ子な気質といえる(まさに妹、さくらだ)。

その勝ち気な様子が明らかに気に入っているのは荒地の魔女の方。
現状の年齢が近いせいか、それとも同じ女としてなのか、
荒地の魔女はたっぷりと重ねた寄る年波を言葉にのせて
王城に向かう気持ちを吐露する。
酸いも甘いもイヤというほど噛み締めてきた妙齢の魔女、
美輪明宏(声)と実にシンクロする役柄である。

荒地の魔女は城を追われ国を追われ、荒れ地に住まざる得なかった過去を振り返る。
その自分がついに王城に招かれる立場になったのである。
自らの魔法、つまり修練で身につけた実力で持っての凱旋帰国。
荒地の魔女にとっては蔑まされた過去の悔しさからようやく手に入れた栄光なのである。

すっかり魔法の籠に乗り慣れて、自ら歩くこともなくなった荒地の魔女が、
結界の張られた王城の長い上り階段に相対しても、
汗だくになりながら登ったのにはそういうわけがある。
荒地の魔女は、国家に、追い出した国王に、求められて呼び出されたのである。
歓びと栄光の階段。

それがすべて宮廷魔術師サリヴァンの罠であったのだから、なかなか悪辣なものである。

(つづく)