消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

柳広司「ジョーカー・ゲーム」Audible

柳広司ジョーカー・ゲーム」、Audible

第二次世界大戦前を舞台にしたスパイ小説。
帝国陸軍のスパイ養成機関「D機関」を主軸にしたオムニバス短編集、の体裁をとっている。
一作ごとが内容の濃さの割に文量が少ないため、非常に密度が濃くスピーディーな展開を楽しめ、
一気に読破できる魅力と迫力と展開をもった作品集であった。

で、あるので人気がでたのでしょう。
この「ジョーカー・ゲーム」を皮切りに、数冊の連作が発表されている。

第一次世界大戦後から、第二次世界大戦前夜の動乱期を舞台にした物語となっている。
現在二作目の後半を読んでいる(オーディオブックだから、聴いている)のだが、ここでいきなり第二次世界大戦に突入した。
わりと時系列にオムニバス物語が進んでいっているようなので、二作目以降、三作目、四作目は第二次世界大戦の只中が舞台になるのかもしれない。

とにかくも、連作の第一作「ジョーカー・ゲーム」は第二次世界大戦前であり、
第一次世界大戦前から暗躍した伝説的凄腕日本人スパイが、
年を取って、
後継者育成として立ち上げた養成機関「D機関」を中心とした事件簿がいくつも描かれている。
この、「伝説的凄腕日本人スパイ」が凄腕過ぎて、あまりに凄すぎて、
むしろ「やりすぎだろう」を通り越した「すごいぜ大将!!」って感じのアクション小説になっている。
例えるなら、ゴルゴ13
例えるなら、水戸黄門暴れん坊将軍
つまり、「いよっ! 待ってました!」の世界であって、
ロジカルなトリック、理知的な駆け引き、説得力のある背景、動機設定などを楽しむよりも、
複雑に入り組んだ事件を「でも大将が全部見抜いて解決」的な、快活でぶっ飛んだ作風である。

その人の名は「結城中佐」
まったくのゴルゴ13っぷり。

小説は、短編集、オムニバスの形式を取っているので、
基本的に一話完結の事件となっている。
そのおかげで、筋、背景、謎、事件が短い文章の中に収まっているので、情報量が多く、その密度が心地よい。
スパイ養成機関「D機関」で育てられた超人的な生徒たち、しかし超能力とかのファンタジックなものではなく、
あくまでリアルなスパイ合戦を描こうとしている。
(いやでも私のような記憶力の悪いボンクラから見ると、記憶力、判断力、洞察力は常軌を逸した登場人物だらけだが)。

第二次世界大戦前の、きな臭く、紛争が絶えず、軍国主義が幅を広げていく中で、
精神論の軍国主義に対してあくまで理知的で近代的な情報戦を戦うスパイ合戦が素敵だ。
ジェームス・ボンドゴルゴ13のような、「超人的主人公が大活躍」の形式ではなく、
結城中佐は、超人的ではあるが、一線を退いての指導者の立場にいるので、
現場の人間たちのドタバタ活劇が面白い。
(超人的主人公が現場に出てきてしまうと、どうしてもマンネリな展開になりがちだと思うので、そういう形式ではない)。

基本的にリアルな設定と展開を大事にしている、ハードボイルドなスパイ小説である。
とはいえ、「スパイ小説」と表現する時点で、なんというか、やはり「深みの足りないサスペンス」になってしまっている。
だが、それが、いい。
作者もそれをわざと意識しているから、長編で長々と一つの事件を扱うのではなく、
短編でさくっと読めて気持ちよく解決する、水戸黄門的なオムニバス形式にしたのだろう。
快活スパイ活劇。
いいですね。小説は、小難しくッちゃ、いけないよ。