消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

僕とネコと離婚物語~ 100 %勝利へ~その14

さて。
長い物語も今こうして最終章を迎えるにあたりました。
正確には、最終章とあと書きを残すのみとなっています。
当初想定して書いたプロットから、結局ついに倍の文量になってしまいました。
書きたいこと、吐き出したいことが如何に多かったのかが偲ばれます。

そして、物語は最終章へ至ります。
最終章は、もしかしたらこれまでと同等ぐらいの長くて
それ以上に退屈な章になるかもしれません。
これまでの文章は、少なからず読者を意識して書いた文章でした。
何かしらの方向性、何かしらの教訓を込められるよう
多少気遣って書いてきたつもりです。
せめて、ドキドキワクワクするようなエンターテイメント性を
(わずかに過ぎませんが)込めてきたつもりです。
物語として読めるように。


警告します。
此処から先は、あまりにも個人的であまりにも赤裸々で、
そしてあまりにも退屈な記述が続くだけです。
人によっては面白みを感じないでしょうし、
人によっては価値を見いだせないでしょうし、
そして何といっても、不快に感じる可能性があります。
個人の独白というものは得てしてそういうものだと思います。
あなただって、酒に酔って昔話をとうとうと語る老人には
きっと辟易することでしょう。


此処から先は、そういう昔話です。
くだらない日記です。あまりにも個人的な備忘録です。
ここまで書いて公開して読ませてきて今更「止めろ」というのも
身勝手な話でしょうが
先の章でネコに語ったとおり、これはただの私の独白です。
酒に酔った男の思い出語りです。
誰の気持ちも何の心持ちも考えない、アルコールの力に任せた寝言です。
付きあわせて申し訳ない気持ちもあります。

警告します。多少なりともこれまでの物語に心悼む気持ちがあったのであれば
(それがどんな立場のどんな感情であれ)
これ以上読むべきではありません。
ブラウザのお気に入りからこのブログを削除して、二度とアクセスしない方が
あなたの人生に不快な瞬間を(わずか数分であっても)避けることが出来るでしょう。


元々、この離婚物語は妻の携帯を盗み見たことから始まりました。
見なければ良かったということは往々にして人生に存在するのです。
聞かない、というのは貴重な選択肢です。
私の独白を聞かないという選択肢を大事にしてください。

如何なる批判も如何なる感想も受け付けません。
ただ、私は私に起こった、そして私がやったことを、
ただただ酒の力を借りて管を巻くだけです。
これは元々人に向けた物語ではないのです。
私の個人的な述懐です。
つまり、マスターベーションです。
初めてブログを、誰かのためではなく自分だけの個人的なくだらない物語として
記述しているんだ、俺は。


……読まない方がいいと思うよ?






7章「カトウのやったこと」その


「奥様はお帰りになられましたでしょうか」
その日の早朝、探偵社から連絡が入った。
「いやまだですけれど」
「でしょうね」
うなづいているような気配が感じられた。
「たった今奥様が相手宅から出てくるところを確認しましたので」

芝居がかった物言いをするヤツだ、と苦笑いしながら質問した。
「ではビデオにしっかり収めてくれた、というわけですね」
「中身をちゃんと確認してからお知らせします。結果は後ほど」


私はその日、幸か不幸か一人で取引先へ終日外出する予定であった。
会社の人間に苛立ちを気づかれる気遣いはない。
ただし、部屋でふて寝を決め込むわけにもいかない。
アポはとってある。仕事はしなくてはならない。


探偵社からのビデオ撮影成功の報を聞いたあと、私は妻へある覚悟をもってメールした。


<帰るって言ってたのに、昨日はどうしたんだ>
<うっかり寝ちゃった! 直接会社に行きます>
<0時に帰る、ってメールしたきり、9時間音信不通だったんだよ。心配したよ>
<ゴメンなさい。飲み過ぎちゃって>
そうであろう。長い酩酊だったな。
私は何度もメールを書きなおして、止む得ない、こんなメールを送った。
波風たてず知らぬふりをして生きる選択肢もあったろう。
だがもう、眠れない夜には耐えられなかった。

結局、弱さゆえなんだろう。弱さゆえに人は間違えるし、
互いに傷つけあう。ネコを見ているとわかる。
臆病なほど、爪を立て牙を向く。



<お前、9時間も音信不通にされる気持ちとか考えたことあるのか?
俺に気遣えないならもう帰ってこなくていいよ。
謝る気があるなら仕事終わったら家で待ってろ。
でなければ二度と帰ってくるな>


これは賭けであったのだろう。いや、賭けなんて割りのいいものではない。
爆発だった。
これで「わかりました、出ていきます」と言われれば随分と違う話になっていただろう。
もちろん、よりシンプルな形に。ただし決定的に。
しかしながら、妻の回答は「家で待っている」であった。


この時、私のカバンの中には一綴の長い文書が入っていた。
妻が泊まり歩いている時分、やたらと長い夜と週末の時間をかけて
暇に飽かして書いた文章である。
何度も何度も書き直した「企画書」である。
私はそれを持って、やや遅い時間に家に帰った。
妻がうんざりした顔で待っていた。小言の嵐を覚悟しているのであろう。


「さぁ、謝ってもらおうか」
「連絡せずに遅くなってごめんなさい。これからはちゃんと連絡します」
「それは朝帰りを止めない、という宣言にも聞こえるんだが」
「……なるべく早く帰ります」
「結構な話だな。どれだけ夜遊びしようが飲み歩こうがかまうことはない。
 ただし俺を不快にさせる人間を俺は絶対にゆるさない。
 先週の朝帰りの際に伝えていたはずだよな?
 俺の気分を害するヤツには、必ず、絶対的に、制裁を加えるって」
「……これから気をつけるから」
「そういう話じゃない。『まず』キミに与える制裁は、今後一週間の夜間外出禁止だ。
 仕事が終わったら家にいろ」
「それは困る、会社の飲み会があるし……」
「断れ。夫に命じられたと言え」


一週間。
皮肉な話です。その一週間後にこそ、私たち夫婦の五回目の結婚記念日が待っていたのでした。
何度も喧嘩しました。何度も離婚を口にしました。
しかしそれは夫婦である二人が、夫婦であるために必要であったぶつかり合いでした。
人生と人生のすり合わせでした。
それは言うまでもなく、「二人で生きていく」という目的に向けてのぶつかり合いだったのです。
結婚式をあげ(親族だけの内輪の式でしたが)祝福を受けた忘れられない記念日が
もうあと僅かに迫っていたのです。
私はその日、妻の希望するイベントのチケットを取り、遠出だったのでホテルまで押さえてありました。
それが果たされるわけがないと知りながら。



妻はこの夜、長く悩んでいるようでした。
その心情を図ることは難しいですし、いくつかかけたらしい電話の宛先も知りません。
憶測で語ることはやめておきます。ただ、私はベッドで横になりながら、眠れず耳をそばだてていました。


ひとつ、憶測を語ります。
おそらく、妻は翌日の私の居ない時間に、荷物をまとめて出て行くつもりだったでしょう。
それを察した私は午前三時の気怠い時間に起き上がりました。

さて。ファイナルファンタジーが始まるかな。


(つづく)