消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

ハウルの動く城/ジブリ(宮崎駿) その3

町外れの山道は老体には辛い道である。
途中まで牛車に乗せてくれた放牧の民も心配してくれたが、
ソフィーには行かねばならないわけもある。
それに何しろ、昨日までは若さと気力にあふれた18歳(推定)の少女だったのである。
突然「老人です」と言われても意識がついていかず、
「まだ歩ける」と判断してしまうのも当然であった。

・・・余談だが、そういう無茶な判断は、呪いの力で急に歳を取った老人以外にも
してしまうことがあるみたいで、
若いつもりのまま趣味の登山に興じ、捜索隊の手を煩わすご老人というのは
最近でも絶えることは無い。

ソフィーの85歳(推定)の身体は傾斜の厳しい山道で悲鳴をあげた。
持ってきたチーズと堅焼きパンで昼食を取りながら、
まだ幾らも進んでいないことに戸惑いを覚えていた。
去年の夏、ピクニックで来た時には、もっとずっと軽い足取りで頂上まで行けたものだったのに。
年寄りの身体というのは不自由なものである。

チーズをパンに乗せながら食べていると、茂みに棒が刺さっているのが見て取れた。
杖によさそうなその棒を引っ張りだそうとしてみると、茂みに引っかかっているのかびくともしない。
渾身の力を込めてようやく引き出すと・・・
それは背の高いカカシが倒れていたのであって、突き出ていたのはカカシの足の先であった。

なんでまぁこんなところにカカシがあるのかね、
とは老婆ソフィーでなくても思うところ。
しかし年寄りの便利なところは、そう簡単には驚かなくなっているところ。
カカシを立たせると、ソフィーの三倍もの背丈はある背の高いカカシである。
顔が株、でできているらしい。
「あたしゃ株は嫌いだけれどね。あんたは頑張ってそこに立っておいでよ」
ソフィーはそのまま再び歩き始める。

するとどうしたことだろう、この世界は魔法で満ち溢れているのだろうか、
カカシが後ろから飛び跳ねながら付いて来るではないか。
「あんたの面倒なんか見れないんだよ、あたしゃハウルに用があるんだから」
と追い返そうとすると、どこから拾ってきたのだろう、
カカシは木の杖をソフィーの前に差し出した。

「こりゃありがたいものをいただいたね。ついでに今夜の宿も探してきてくれるといいけどねー」
恩返しをして去っていくカカシの背中に適当に叫んでみた。
それで追い返したつもりだったが、日もくれて夜も近づいてきた頃、
本当にカカシは今夜の宿を連れてきたのである。
なんであろう、それこそまさに「ハウルの動く城」であった。

(考えてみれば、宿を「連れてくる」なんて言ったら、動く建物以外あり得ないですかれね。
そりゃハウルの動く城ぐらいしか選択肢に含まれませんよね)


(つづく)