消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

伊坂幸太郎「マリアビートル」Audible

Audibleにて公開されている伊坂幸太郎の作品は、
このマリアビートルとグラスホッパーだけであった。
グラスホッパーは読了済みだったのでこちらを聴き始めたが、グラスホッパーの続編であった。
予備知識無しのサプライズは嬉しいものである。
「…ん?この設定知ってる…ん!?令嬢!?それって!?」

伊坂幸太郎は、単独完結してる長編小説の続編を書くことがある。
「魔王」の続編もそうだった。
ただ、魔王の時は、単独完結してる、と本人も出版社も思ってたかもしれないけれど、
読者の方はとてもそうは思えず、
「なんだ、あるじゃん!続編!」
とモダンタイムス、に飛びついたら、
「…え?続編…?」
と非常に消化不良な内容であった。

一方のこちら。
グラスホッパーも非常に優れた小説だったが、
それに輪をかけての圧倒的な面白さの、マリアビートル!
随所に小ネタとして出てくる前作の世界観、登場人物らの名前。
それらにクスリとしながらも、
緻密に、あり得ない御都合主義と偶然の積み重ねが描いていく、
実に伊坂幸太郎らしい物語をたっぷりと堪能させてもらった。

伏線がしっかり伏線として回収されつつ、
読者をからかうように、伏線がわざと失敗させられるところなんか、
思わず驚きの声が出てしまった。
ほんとうに、ピエロのように観客(読者)の心を楽しませる軽快さ。

かなりの長編であったが、隙があればイヤホンを耳に突っ込み聴きたくなるオーディオブックであった。
小説ってやっぱ面白いなー。

もちろん、
伊坂幸太郎は娯楽性を重んじてるので、
純文学とか深い思索考察の本が読みたい人には向かないかもしれない。
だがしかし娯楽小説であっても、
非常に冗長に語られる、学びや登場人物たちの持論は、
「…これは娘に読ませたい…!」
と、まだ一歳の娘の必読書に据えたくなるほどの見識と視野に富んでいた。

胸糞悪くなる「悪」の権化、王子くんが語る、
ルワンダの虐殺、
人心掌握術は知っておくべきだし、
彼の質問に答える鈴木先生の理論は腹にストンと落ちていく。

ああ。
読み終えてしまったけれど、まだまだ読みたい、この世界!
またの続編に期待します。

…でもAudibleでは伊坂幸太郎少ないのだよなー。
村上春樹も一冊もないし…
権利関係いろいろあるのでしょうな。