消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

「プーネコ」北道正幸

猫を飼い始めたので、
猫に関する書籍や日常を描いたマンガを買い始めた。
少しでもやつらの生態に近づけるように。

特に、変に擬人化したりせず、
日常を客観的に、あるいは主観的に描いたようなコミックは、
「猫と生活する、というのはいかなる行為なのか」
を知る上で貴重な情報源になるのでは、と考えた。

たとえば世紀末を生き抜くための知識は
北斗の拳」が最適なHOW TO 本となるし、
甲子園を目指すには「タッチ」を読めばいいだろう。
看護婦になるためには、意見が分かれるところだが、
おたんこナース」か「キャンディ・キャンディ」を
自分がなりたい将来像を踏まえて選択するといい。
とにかく強くなりたければ「ドラゴンボール」がおすすめだ。

では「猫との生活」を知る上での良書となると、どれだろう?
注意しなくてはならないのは、擬人化されていないこと。
猫と人間の会話が成立したり、
猫の行動が人間のそれにちかかったりするような「ファンタジー」は参考にならない。

最良の例は昔のマンガ、
「ハムスターの研究レポート」や、
動物のお医者さん」などだろう。
あくまでも人間視点で描かれていることが必要だ。

そんな厳しい選球眼で選ばれた本作、「プーねこ」は、
大はずれだった。
しかしそれは「リアルな生活描写」を求めた答えとしての「大はずれ」で、
コミックスとしては、まことに水準の高い、
きわめて完成された作品であった。

思わずファンになってしまうほどに。

「プーねこ」は、擬人化どころの騒ぎではないやたらと個性と知能をもった猫たちが、
するどい視点からさりげなく批評を突き刺す、四コマギャグマンガである。
その視点がやたらと切れ味よく、また博識で、
文中の台詞ひとつ、さりげない画面構成にいたるまで、
「爆笑」ではなく、「ニンマリ」を誘う見事な演出にあふれている。

惜しむらくは、
女の子(人間)の絵はかわいいのに、
猫たちがわりとリアルで、少しかわいげに欠ける点か。
(それにしたって、サンリオや少女漫画のごとく大きな目で
 愛らしく描かれる多くの猫マンガよりよほど好感がもてるのだが)


「プーねこ」の推薦文やレビューの中に、
「買った人だけ大絶賛」という一文がある。
まぁ普通買って読まなければ絶賛含む批評をしてはいけないだろうと思うのだが、
この評価は、この作品の良さと、不遇と言える知名度を端的にあらわしている。

筆者、北道正幸も文中で「漫画家になってみたけれど、いまいちぱっとしない」
と嘆いている。
これだけの面白い作品が世に知られていないのは惜しい、
とばかりに応援するレビューも多くあるのだけれど、
それすらも地味。
宿命的な日陰者、そんな悲しい気配さえある。


私も、たまたま読んだ者として、
この作品を推奨する立場に立とうと思う。
いや、多分作品よりも、作者を推奨していいと思う。
この作者の他の作品は知らないけれど、
筆致から感じ取れる能力、センスは、
題材に縛られない高みに達しているように感じられるからだ。

どうにもマニアックな、いわゆる「オタク受け」するようなネタ、内容ばかりなので、
万人向けとは言いがたいかもしれないが、
インテリジェントな部分を刺激される独特のおかしみ、
我々のごくごく身近な現在を斜めやおらに切り捨てる面白さ、
なかなか推奨である。


「なかなか」としたのは、
やっぱり、この面白みはマイノリティなんだろうな、と感じるからである。
あんまり応援していないな。


それから、「ネコの生活が知りたい」っといった方には、
まったく向いていないことを、心から注釈しておこう。
全編通して「ネコじゃなくていいじゃん」
そこがまた、いいところではあるのだけれど……


とりあえず、作者が「いまいちぱっとしない人気」を愚痴っていたので、
みなさん応援してあげてください。
(知り合いでもなんでもないですが)