消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

「七回死んだ男」西澤 保彦

一日を、午前零時から九回繰り返すという不思議な体質を持つ高校生が主人公の、推理小説
つまり、多分にSF 的要素をもった推理小説であるのだけれども、
内容に非リアリズムな面がない。
つまり、「たまたま、同じ日を繰り返すけれども、現実的な手法で解決を試みる」
本格推理小説となっている。

業界では「SF新本格」とか呼ばれてるらしい。
本格推理小説、とSF小説を融合したカテゴリと思われる。

作者、西澤氏はあとがきでも述べている。
無類のSF 好きで、推理小説作家。
そういう境遇からこの手の形式が生まれたそうで、
この「七回死んだ男」を皮切りに、SF 的な能力が事件に深く絡んだ
推理小説を何冊も書いている(それがSF新本格、と呼ばれる一群となった模様)。

たとえばテレパシー、たとえばテレポーテーション。
そんな中で、SF新本格の処女作として選ばれた題材は、
タイムテレポーテーションとでも言うような、時間の繰り返し物語り。

この手法はそれほど珍しい手法ではなくて、
作者もあとがきで述べている通りに古い映画や、小説、
それから私の好きな「ラブデリック系」ゲームも、
実はこの手法をとっている。

つまり、「ある繰り返し」の中で、主人公が繰り返しによる情報収集の結果、
アプローチ方法を変更して繰り返しを「変化」させることになる。

理屈は簡単なのだけれど、これをうまく説明し、
なおかつリアリティのある小説の中に埋め込むのはそれなりの苦労を要する。

その結果、この「七回死んだ男」は、非常によくできたロジックパズルを持ちつつ、
どうしても説明的にならざる得ない、「くどい推理小説」となってしまっている。

感想を一言で言ってしまうなら、
「まぁ面白かった。でもくどい」

SF小説推理小説も同じ宿命をもっているけれども、
理屈を説明しなくてはならない、という点がある。
サイエンス・フィクショナルな「前提の事実となる説明」と、
犯行に及んだ犯人心理、犯行手口のパズル的な「謎解き説明」

その両方の説明を要するこの小説が「くどく」ならないわけがなく、
読後感としては「この半分のページ数で読めたかな」
そのくらい、解説に要している。

さらに、最後のどんでん返しに、もうひとつどんでん返しをつけている。
ここは正直、面白かったけれど、「もうほんとにくどい」
多分、くどさを理解している作者が、挑戦的に、
あるいはイタズラとして付け加えたのだろう。
したたかで遊び心のある作者だ。

数十作を書いている作者、西澤 保彦の、今なお代表作と呼ばれる本作。
傑作ミステリと評されるだけあって、ロジックパズルは非常によくできている。
ミステリが好きな人には、SF要素も手伝って、一味違う「本格ミステリ
としてお薦めできる。

しかし、上述したくどさ、
単純に「同じ日が数回繰り返され、同じような事件が繰り返される」くどさ、
説明のくどさ、
それから、個人的に感じたことだけれど、文体の「無理してる感」が気になる人には
薦めにくい作品である。
(主人公が高校生なのだけれど、その若さ、軽さの出し方が、すこしギクシャクして感じたのだ)


この直後、
本当に間髪いれずに読み出した中島らも推理小説ガダラの豚
この比較は酷であろうけれども、
役者が違うな、と思ってしまった。