消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

白石一文「ほかならぬ人へ」Audible

読了後に知ったが、直木賞受賞作。
何というか、私の実体験がゆえの
「不倫ものにはかなり入れ込む」
傾向が出て、か、
のめり込んで一気に読み終えた(聴き終えた)。
もっとも、オーディオブックの良いところでもあるけれど、
こちらが聞いてようがぼーっとしてようが勝手に進んでいくのだが。

のめり込んで「一気に終えた」のはもう一つ理由がある。
この小説、終盤が信じられないほど駆け足すぎる。
4分の3までは、ワクワクドキドキ、時に憤慨しながら大興奮で読み進めたのだが、
そこから一気に終わって、しまうのだ。
例えるなら、打ち切り漫画。
「あと三話で広げた風呂敷全部畳む!」
という感じで一気に終わってしまう。
ジェットコースターに例えていいほどの、
急加速、急終了。
「え!?なんで!?そうなの!?」
となる。

風呂敷を畳んでくれたのだから、
物語としてはちゃんと成立してるのだけど、
そんなに急いで終わらなくても…と呆気にとられる。
むしろこれは新しい感覚かも知れないから、
「ハイキングと思って登ったら、帰りはソリに乗って一気に麓まで」感のある、
こういう手法も一つ、アリなのかもしれない。

それにしたって…イントロからあれだけ強調された、
「良家の生まれだが良家に馴染めず」の要素が、
ほんとに何というか、牛丼に添えた紅生姜程度の彩りしか無く、
それはそれで大変美味しく効果はあったのだけれど、
「あれー?ただの香りづけー?」
と肩透かしだった。
むしろこれも逆に面白い手法か…


ネタバレになるのでここは読まないで欲しいが、、、

主人公の女上司の元旦那が故人である話を読んだ時、
「あ。きっとこれは闇深い話になるな、ドロドロサスペンスだな」
と思った自分が恥ずかしい。
エンターテイメントに毒されていた。


全部読んで、改めてタイトルをみて、
あー、つまりテーマはこれだけだったんだ、と気付かされた。
このテーマ以外は全て紅生姜に過ぎなかったんだ、香りづけだったんだ、と。

「ほかならぬ人」
主人公がいう。
「この人だ、って人に出会ったら、ちゃんとわかるんだよ」と。

物語はかなりリアルな感じで、
サラリーマン物語としても、
夫婦の泥沼愛憎劇としても、
大変面白く刺激的で熱中させるものだったのだが、
根底にある「最愛の伴侶は会えばわかる」というロマンチシズム。
この点は明らかに少女漫画クラスの、
ロマンチックな要素となっていて、
読んだことないけどハーレークイーンとか、
そんな目が星でキラキラしてるようなテーマが、
この小説のベースなのである。

そして、
見事な手法だな、と思ったのが、
その、ともすれば恥ずかしくて読んでられない、
「運命の人ハーレクインロマンス」の部分を、
ラスト4分の1に凝縮して、
多くを語らずアウトラインを一気に描いて、
「ちょっと恥ずかしいからあとは読者が想像してよ」
と言わんばかりの、概略だけ語り尽くしている。

この手法なら、
少女漫画で赤面するような展開は、
読者の心に残すけれども、
小説内では冗長に語る必要は無い。

うまいなー。
でもほんと驚かされるなー。
打ち切り漫画にしか思えない終わり方だなー。と。


面白かったですが、
人に勧められるだろうか…
いやこのジェットコースター感はむしろ勧めてもいいかもしれん。