消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

『ちっぽけな本屋 ④』

 数回の転居を経て実家のある町に戻ったとき、商店街の雰囲気は一変していた。

駄菓子屋、文房具屋やらはつぶれて久しかったが、昨今どこでも見かけるチェーン店に左右を抑えられて、
そのちっぽけな本屋はさらに縮んでしまったように見えた。

かつては知らない駅を降りればその駅ならではの表情が、そして帰ってくればわが町ならではの表情が迎えてくれたものだったが、
時々自分が駅を間違えていないか不安になるほど、似たような店の続く駅前となっていた。

その中で町の進化から置いてけぼりをくらったように、ちっぽけな本屋は薄暗い明かりで店頭の雑誌を照らしていた。

郷愁も手伝って私は三度そこの常連となった。

開け放しのガラス戸をくぐってはいると奥の座敷で新聞を読んでいる店主がこちらを見た。

(老けたな、角メガネじじい)

懐かしさが込み上げた。

店主はいつになく私を見つめた後、分厚い角ばったメガネをいつもの仕草でずりあげると、新聞にまた目を戻した。

その一連の流れで店主が私を覚えてくれていることが知れた。

会話と呼べるほど言葉をかわした記憶はなかったけれども、私も学生の時分はずいぶんアルバイト料をつぎ込んだ店である。

馴染みの飲み屋のように覚えていてくれたことが、素直にうれしかった。

こんな形で、私は地元に帰ってきたことを実感したのだった。

商店街も町も様変わりをして少しよそよそしさを感じていた私の胸が、わずかに温かくなるのを感じた。