消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

ぽかぽかモンハン日記~Gに至る道程~

「Gに至る」


ベッドの上で目を覚まし、思わずため息が出た。
これで何度目か。
体中がずっしりと重い。骨が数本いってるのだろう。
麻酔の効いたしびれるような意識の奥のほうに鈍い痛みの感触がある。
またアイルーの荷車で運び込まれたらしい。


此の村の医者はまったく名医だ。満身創痍、骨にまで達する重病を
数日意識を失ってる間に完治させてくれるのだから。
おかげで、何度も何度も強敵に立ち向かうことができる。
……何度も何度も病院送りになりながら。


最初はイャンクックだった。
初めての巨大な敵に、まだハンターになりたてだった自分は
あっという間に転職を考えた。
農場を大きくして地に足の着いた生活。
大地のもたらす恵みに感謝しながら生きればいいじゃないか。
ポッケ村には宿屋がないから、農場の収穫物を出す宿でもやれば
案外流行るんじゃなかろうか。料理はキッチンアイルーに任せればいい。

イャンクックの火に焦がされくちばしについばまれ尻尾に吹き飛ばされながら
そんな引退後の生活を思い描いていた。

「ハンマーがわりと威力もあっていい感じよ」

知り合いのハンターからの助言に従い、
忍者っぽくてカッコいいという理由で振り回していた双剣を捨てた。
重たいハンマーを腕力に任せて振り回した結果、
巨大な鳥の化物、イャンクックをついにしとめることができた。
(その時の写真が今もベッドサイドに飾られている)

その次はフルフルだった。
クック先生以上の壁を感じた。
沖縄に旅行している最中さえ、妻が寝静まった後に何度となく挑戦した。
二十回は病院に送られただろう。
体内で電撃を練ることができるこの盲目の猛獣は
怒り出すととたんに速度が早くなる。
吹き飛ばされた挙句雷撃で黒焦げにされる毎日だった。

……やっぱり農場で働いてた方がいいんじゃねぇかな。牧場物語みたいに。


「火属性に弱い」
「近づくのが怖いなら、ボウガンで遠距離から狙ったら?」
順調にキャリアアップしていく友人ハンターからのアドバイスがブレイクスルーとなった。
恐怖で足がすくんでいた戦いが、銃火器の導入で一気に楽になった。
火炎弾をたっぷり受けてぶすぶすと煙をあげているフルフルを見下ろしながら
ある種のカタルシスを感じていた。


「太刀が良かったですよ」
志半ばで引退した元ハンターの想いがその後の人生を決めた。
絶対的な強者をたたきのめす快感。
絶望的な力の差がありながら、一瞬の間合いで勝者と敗者が逆転する一撃。
振り下ろす重い一撃が射精に近い音をたててほとばしった。


そこから破竹のハンターライフが始まった。
佐々木小次郎が「物干し竿」と呼んだ長剣以上の長大な太刀を振り回し
強敵をなぎ払う快感に酔いしれた。

依頼があればどんなモンスターでも狩った。
それが例え、平和に暮らすモンスターの惨殺であっても。
人間のわがままな理由でぶち殺すことであっても。

大義名分は形があれば十分だった。
血に飢えた獣、モンスターはむしろ、私だった。


おかげで一時、ポッケ村周囲のゲネポスとイャンクックは絶滅の危機に瀕したと言われた。
恐怖の代名詞であったフルフルさえ、趣味的なハンティングの標的になった。
素材集めにバサルモスやガノトトスを狩り、
週末にはスポーツハンティングと称してギザミを狩り、鍋のだしにした。


しかし大自然はそんな私の慢心を簡単に砕いてくれた。
しばらく忘れていたティガレックスの恐怖。
此の村に最初に来たときに襲ってきたあの尋常ならざる化物。
暴君、轟竜などといった畏敬の別名で恐れられる絶対的覇者。

雪山で教われ一瞬で病院送りになったのであったが、
それからまるで噂を聞かなかったので記憶の奥に封じ込めていた。
……恐怖が蘇る。
ヤツの雄叫びを聞いただけで体がすくみあがってしまう。
倒すなどとんでもない。逃げるだけで精一杯の相手だ。


「……引退しようかと思っているんだ」
私の告白に、またかと呆れた顔で友人ハンターが溜息ついた。
「……何度も挑戦すれば見えてくるって。修行が大事なんだよ修行が」
「いやだ。苦労は嫌いだ。頑張るとかも大嫌いだ。俺はルーンファクトリーになるんだ」
「……モンハンで農場経営しても誰も嫁にこないぞ」

「そうだ。お前やってくれ」
「……は? 何言ってるんだ。これは協力プレイできないクエストだから」
「いや、PSP 貸すからやってくれ。ていうかやれ」
「……」

会社における直属の上司という立場を利用してティガレックスをついに轟沈させた。
狩猟生活におけるサバイブにおいて一番大事なことは「何でも使う」こと。
生き延びるための手段を講じまた一つステップを登った。


こうなってくると俄然面白くなってくる。
ついに上位クエストに挑戦出来るようになり
強力な武器を生産でき
太刀使いが向上していく。

自らが強くなる感じ。
ドラクエなどのRPG で数値化されたこの感触が
リアルアクションで感じられるのが、このモンスターハンターというゲームである。
今はストーリーの合間に戦闘をして決まったレベルまであげるだけのファイナルファンタジー
かつてもっていた面白さがこれなのである。


ティガレックスを下し、上位にあがり
上位素材を手に入れられるようになって面白さに拍車がかかる。
強力な武器、魅力的なスキル、
そしてこちらの成長にあわせるように強化されたモンスターたちが現れはじめる。

古龍、なる驚異的な存在も現れた。
ドドブランゴのダメージが倍化していて唖然とする。
クィーンランゴスタのブレス(?)に恐れおののく。
ヒプノックに気合をいれて挑んだら意外に弱くて肩透かし。


だがいずれも私の足元に倒れ伏した。
ワシントン条約? シー・シェパード? 糞食らえだ。
私はやりたい時にやる。狩りたいときに狩る。


ディアブロス二匹のクエストで火力不足に悩む。
倒せると思うのだが時間が足りなくなってしまう。
弱点属性を狙い、無駄を省くタメオトモアイルーを置いていく。

リオレウスリオレイア
特にリオレウスの火力と、近接武器を懐におびき寄せて放つ飛びすさり火炎に何度も転がされるが
やはり最後に立っているのは私だった。


ハンターランクを順調にあげ村のクエストをこなしていくなかで
もう何度目かの壁が現れた。
片耳のイャンガルルガ
下位クエストでは素材集めに適当に狩っていた相手に気軽な気持ちで挑んだら
見事なほど返り討ちにされた。


手負いの獣ほど手強いと言う。
傷の数だけキャリアが多い。傷が多い方が強い。だからキャプテン・ハーロックは強い。
当然片耳のイャンガルルガも圧倒的に強い。
これまで戦った鳥龍種が子供のように思えるような強さである。
攻撃力もさることながら、予測出来ない動き、素早さ。
そしていつ果てるとも知れない体力。
何度も何度も自慢の太刀を叩きつけてもこちらを小馬鹿にするような空中ステップを見せて
激しく追撃してくる。


……また心、折れちゃおうかなぁ。
そんな気持がよぎった。
戦闘民族サイヤ人とはワケが違う。私はヤムチャにすぎない。
とてつもなく強い相手に「オラワクワクしてきたぞ」
などと悠長なこと言える余裕はない。


何度目かの病院送りをへて、いよいよ心が折れかけた。
どうすることもできないのか。また負けてしまうのか。

イャンクック
フルフル
ティガレックス

通り過ぎてきた女たちの顔が浮かぶ。Z ガンダムの最終回みたいに。
そうだ。私はまだ負けちゃいない、負けちゃいけない!
あと五分、二死済み、回復薬が底を尽きた状態で、気力を振り絞って、
実のところは半ばヤケになって
放った気刃斬りが吸い込まれるように全弾命中した。
「……みんなの力か……?」
完全に諦めていたところで、紫色の巨体が地響きを立てて沈んだ。


だが懸念事項があった。ティガレックスである。
上位のその先、まだ見ぬ「G」、いわゆるゴルゴ級へ至るためには、
私をして「お前やれ」とPSP をワタシメた
ティガレックスが待ち構えているのである。


しかも、二匹。
え? なんで二匹? 兄弟?
一匹でダメなのに、二匹とか、馬鹿なの? バグ??


もうすっかり恒例となった「引退検討会議」が脳内で開催された。
議長が宣言する。
「既に150時間以上プレイしており、当初の目的は果たされたと思われる。
 ドラクエで言うなら姫を助けて龍を倒してそれでも裏ボスを探しているようなもの。
 そんな行為には自己満足しか存在しない。
 バラモスを倒せばムドーが、ドルマゲスを倒せばデスピサロが。
 ゾーマまでやるつもりか? そんなものはロトの子孫に任せておけばいい!
 無駄という他ない!」


だが……僕は……G級に……行きたい……!!
あの人に、勝ちたい……!


だったら実力で行けばいいものを、
またしても金と技術で乗り切ろうとする自分がどこまでも好きだ。
今度は「XLink KAI」を使用し、インターネットを通じて國中に訴えた。

「……助けて」


モンスターハンターの中には、当然すべての技を極め
成長と成功の絶頂に至った人々が大勢いる。
彼らは本来引退してKOEI の大航海時代オンラインなどへ
活躍の場を移しているものなのだが


なかには「導師」として若手ハンターを導く担い手となる人々がいる。
男塾で言えば三号生、北斗の拳で言えばラオウ聖闘士星矢で言えばフェニックス一輝あたりか。
いやマリアさんか。


その導師(グル)たちを利用し……否、師と仰ぎ教えをこうのである。
……ティガレックス二匹のクエストで。一石二鳥。


かくして、動かぬ肉体となった二匹のティガレックスを見下ろしながら
私はついにG級への道を進み始めた。
……導師の後ろに隠れていれば、アカムトルムもシェンガオレンも物の数ではないわ。
のび太のくせに生意気だぞ!
そんな口のリーゼント+あひる口の彼が思い浮かんだ。



一気に書いたけれど
私はモンスターハンターである。
今はそれを、誇りに思う。