消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

ハウルの動く城/ジブリ(宮崎駿) その4

ハウルの城は、動く。
鳥のような鈎爪を持った四本の足が生えており、
荒野をギコシャコバタコンと移動しまくっている。
スムーズな移動とは思われず、上部にデタラメに作られた塔や窓が
動きにあわせてギクシャクと動いている。
その窓やドーム状の珍妙な屋根の組み合わせは、
巨大なクチバシ、クチバシから除く舌、ドーム状の頭、窓の目、
という動く不格好な生き物のように見えた。

動く速度としては、人間が追いかけるには消して遅いとは言えず、
ソフィーは飛び跳ねるカカシに促されて最後のひと踏ん張りとばかり、
必死で走って裏口(しっぽのような位置)の手すりにつかまることに成功した。

あまりの運動に息も絶え絶えになりながらも、
城を連れてきたカカシに御礼をいうと、恐る恐る扉を開いた。
何しろ、動く城の中に入るのである。
そして主は美女の心臓を取ってしまうという恐ろしい魔法使いである。
鬼が出るか、蛇が出るか・・・
しかし日もくれて行く当てもないソフィーに選択肢は無い。
薄暗い扉の中へ入り、古ぼけた木の階段を登っていった。

明かりは、わずかにレンガ造りのコンロの上の残り火だけ。
室内の様子はわからないがどうやら台所らしい。
雑然とした影が揺らめくことから、整理がついていない、
散らかった台所であることが、掃除好きのソフィーにはすぐわかった。
どうやら住人は片付けや整頓と無縁の人物らしい。
(お母さんや妹みたいに)
ソフィーのよく知る人物像と重なって、どこか恐怖心がやわらいだ。

コンロの火に手をかざして、冷えきった身体を温める。
住人もよくそうするのだろうか。コンロの前に椅子がすえられていて、
ソフィーは疲れた身体をようやく落ち着けた。
そういえばこの家、表から観た時は動いていて随分揺れているようだったが
中は随分快適である。サスペンションが効いているのだろうか。

「誰かいないのかねぇ・・・」
周囲を見渡しながらつぶやくと、風もないのに炎がゆれた。
「ウロロロロ・・・」
かすかな唸り声がコンロから聴こえると、信じられないことに炎の中に目が現れた。
「・・・今日は一体どれだけ驚かせてくれるのかねぇ・・・」
もう驚き飽きたという風でソフィーは身体を椅子に沈めた。

炎は自らカルシファーと名乗った。
ハウルと契約を結んでいる悪魔なのだという。
ハウルの強力な魔術の源泉、城さえも動かしているのは
自分、カルシファー様なのだ、と自慢気に語った。

しかしカルシファーは、長年ハウルにこき使われていることに
疲れてしまっているのだという。
城を動かし、風呂を沸かし、料理の火まで自分の役目。
万能小間使いといった有り様である。

「なぁあんた、俺をここから解放してくれよ、手伝ってくれ。
 ハウルとの契約の秘密を暴いてくれよ。そうすれば契約を無効にできるんだ。
 そしたら、あんたの呪いも解いてやるよ! そのこんがらがった呪いをさ」
「悪魔と取引きをするわけね? あんたその約束守れるの?」
「おいら、かわいそうな悪魔なんだよ! ハウルにこき使われてさ!
 なぁ頼むよぅー・・・ばあちゃん? ばあちゃんってば!」

朝から歩き通しで疲れが募っている。
コンロの炎がしゃべる驚きより、もう眠気の方が強くなってきている。
足元から頭の奥のほうから、ずんとした重たい疲労が登ってくる。
コンロの炎の緩やかなぬくもりがそれを優しく包み込んで、
ソフィーはゆっくりと眠りの園へ降りてゆくのであった。

(つづく)