消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

僕とネコと再婚物語~その2~

なぜひた隠しにしてきたのか。


「秘密秘密~♪ 秘密は不思議~♪」
「秘密秘密~♪ 秘密は蜜の味~♪」
ネコたちはゴールデンウィークの明るい日差しの中で陽気である。
4年前のこの日、事件が始まったっていうのに。


今回、離婚物語の第二部、再婚物語を開始したのだけれど、
これを読むにあたって絶対的に頭にとどめておいてほしいことがある。
というか、この物語の端々で、非常に気になり、鼻につく要素となる点がある。
そこをどうかひとつコモンセンスとして、共有していただきたい。
納得しろ、共感しろとは言わないが、
この主軸があることを理解して読んでいただきたい。
でないと、ところどころで首を傾げることになる。


「絶対に秘密にしなくてはならない」
という大きく頑なな意志、である。


この再婚物語は、離婚物語ほどドラマチックな展開はなく、
淡々と二人の恋の顛末が書かれるだけの内容となるのだが、
その中で唯一面白みとスリルを付加する要素が、「秘密」に固執している点である。
僕は彼女との恋愛、付き合いを、
「頭がオカシイんじゃないか?」というほど綿密に、
徹底的に秘密にしようとして、行動し言動している。
それはしばし常軌を逸した秘密主義に、読者には感じられるかもしれない。
何故そこまで徹底して秘密にしなくてはならないのか、疑問に思われるかもしれない。


「秘密にしなくてはならなかったのだ」
ここはひとつ、そう理解していただきたい。
正論とか意味とか契約とか、そういう納得度のある理由では無いにしても、
少なくとも我々二人は「そうしなくてはならない」を共通事項として定め、
それを徹底して守ってきたのである。

このことを大前提として読んでもらわなくては、
この再婚物語は腑に落ちない、つまらない物語になってしまう。
なので妄信的に「秘密にしなくては!」と思いながら読んで欲しいのだが
そう要求するだけでは疑問符が除けないので
納得できるかはともかくとして、ちゃんと説明させていただきたい。

秘密にしなくてはならなかったのだ。



理由は以下の通りとなる。

■オフィスラブであったため

オフィスラブは本来的に秘密扱いにすべきものである。
なぜなら仕事がやりにくくなるからである。
A さんとB さんが恋愛関係にあるとわかりながら、
A さんには説教をし、B さんにはその意図を伝えておく、
というようなケースを想定すると、なんとなく想像付くのではなかろうか。

あるいはA さんとB さんが、製造側とチェック側のような関係にあるとき、
その恋愛関係が周囲に漏れていたら、
ただしくチェック機構が働いている、と周囲は見てくれるだろうか。
仕事は仕事、プライベートはプライベート、と言いながらも、
実際は人間たちは自分たちの感情や相性に揺れ動かされ、
判断を変えたり、評価を変えたり、態度を変えたり、命令を変えたりするものである。

事実、私は開発部門の人間であり、彼女はチェック部門として
その開発物の合否を見極める立場の人間であった。
私たち二人はそれぞれの立場で責任のある位置にいたので
仕事に私情を挟むようなことはしなかったが、
もし周囲に恋愛関係が漏れていたら、それが色眼鏡以外の無色透明に見られただろうか。


さらにこの場合において、A さんとB さんの恋愛が破綻した場合はどうなるか。
仕事の上司たちは、二人の状況を慮って仕事で絡まないように取り計らってあげなくては
ならないだろうか?
冗談。めんどい。

オフィスラブは秘するべき。
知らないことは無いことと一緒である。
余計な情報は無いに越したことは無い。
AさんとB さんが社会人の自覚があり、プライベートを仕事に持ち込まないプライドがあるなら、
なおのことである。
オフィスラブは秘するべきなのである。



ステークホルダーであったため

実際はこれがもっとも大きな理由であり、絶対的な理由である。
私と彼女は、職場は同じであるものの、利害関係者であった。
私の会社の業務を、彼女の会社が請け負っていたのである。

この場合どういったことが想定されるだろう。
予算、というものがある。
私の会社側はその業務、プロジェクトに対して予算をもっており、
別の会社に発注するにあたっての限度額を持っている。
しかし限度額をすべて使うことは望ましくない。安くて品質が良ければそれが一番である。
通常、受注側の会社が、業務を見積もって金額換算して見積として発注元に提案する。
その仕事、100万円いただければこの日までにここまでできまっせ、と。

発注側(私の会社)が、予算として200万もっていたらどうなるだろう。
予算内に望んだ仕事が完了するのだから非常にありがたいだろう。
浮いたお金は会社の利益になる。プロジェクトの利益になる。個人の評価に繋がる。
実際は、プロジェクトの別のことに使う。プロジェクトは往々にして金が足りないものである。


さてここで、
もし、受注側が予算金額を知っていたらどうなるだろう。
200万円持っていることがわかっていたら、190万までは持っていける、と考えることはないだろうか。
これだけで、ステークホルダーが親密すぎることに問題があることは
想像してもらえるかと思う。

私の場合は彼女の会社に直接業務を発注する立場になかった。
つまり、私は予算を知る立場ではなく、金額交渉する立場でもなかった。
しかし情報漏洩を疑われては面倒である。
もちろん私は情報を漏らすつもりなどないが、
そう言われても、二人が恋愛関係にある、と聞いた場合、
周囲は、あなたはどう考えるだろうか。
仕事がやりにくくならないだろうか。


こんな事例がある。
ある会社で、男性が、派遣社員の女性を見初めて付き合った。
その男性はピロートークで、その女性の人件費として
自分の会社が支払っている金額を漏らしたのである。

派遣社員の場合、派遣会社を通して仕事と給与は女性に与えられる。
アルバイトの時給XX円、とはわけが違う。
派遣会社、受注請負会社は、ある責任とリスクをもって仕事を受注し、
人材を派遣している。
だから発注元が支払っている金額=その人材の手に渡る給料、ではない。
アタリマエのことである。

しかし、その女性はその金額を聞いて憤慨した。
あたしはそんなに給料もらっていない! ピンハネだ!
アホな男も同調した。
そうだ、そのとおりだ、ピンハネだ! 抗議して給料を上げてもらおう!

かくして女性は首となり、現場もおろされ、派遣会社も契約を切った。
男の方は会社から厳重に注意され将来を戒められた。
なぜか。
100歩ゆずって、ピロートークレベルで、支払金額を漏らすのはいいかもしれない(良くないけど)。
しかしその金額には多くの「意味」が含まれている。
女性の働きに対する人件費だけではないのだ。
その女性の働きが悪かった時に補填するための保険金、後進を育成するための費用、
営業がその仕事を受注するための人件費、等々……。
それらを無視してバイト感覚で、もらってる金額を全部もらおうとする女性も思慮が足りないが、
そのお金の内実まで考えずに女性と一緒に考える男に至ってはアホという他無い。

このケースでは、男と女は、契約派遣会社を通さずに直接契約をすることで、
発注元が支払っている金額のすべてが回ってくるように働きかけたのである。
個人と契約した場合、不慮の事故などのリスクを補填する要素が無い。
まったくの短慮であるため、呆れた発注元、派遣元は、二人に対して「それなりの措置」をとったのである。


ステークホルダーにはこういった面倒な要素がくっついている。
そして私も彼女もそれなりの地位、立場であったため、
個人対個人の恋愛感情以外に、会社対会社、業務における立場というものがあった。
それを乱す意志が無い、と口で言うのは簡単だが、
周囲はそれらを聞いて「じゃあ安心」と仕事できただろうか?
その結果もたらされるのは「最初からその話(恋愛)を聞いていない状態」と変わることがないのであれば
秘密にしておく方が圧倒的にわかりやすいのである。

そして、恋愛が破綻した場合に周囲を気遣わせるくらいなら、
ちゃんと仕事を大事にして、恋愛を仕事より優先度下げて、社会人として振る舞うべきである。
であるので、ステークホルダーとの恋愛は秘するべきである。



■いつか終わるかもしれなかったため

上記二点から見て、会社が絡むと恋愛というのは色々面倒なのである。
特に受発注の会社関係が出てくると、同期同士のオフィスラブとは厄介さが異なる。
恥ずかしいから、照れるから、だけで隠しているわけでもないのである。

先にもちょろっと「別れた場合の面倒さ」を触れた。
周囲の人間が仕事をしにくくなるかもしれないし、
ケツノアナの小さい人間であったりしたら、別れた相手の会社との取引を
やめてしまったり人を変えさせたりしてしまうかもしれない。
そういうことを周囲が心配しなくてはならなくなる。

とかく、面倒であるから、本当はオフィスラブとか、
関係会社間の恋愛なんかしない方がいいものである。

それでなくても、恋人同士、近しい者達は仕事の愚痴を言う。
会社の愚痴を言う。
その中には多分に「内情」が含まれている。
A さんだから話した内容が、B さんに伝わると思うとどうなるか。
困るから、話題を選ばなくてはならなくなる。
この点は伝えて、この点は伝えない、なんて取捨選択が出てくる。
それを選別するのも面倒であれば、選別のミスで仕事の大事な連絡が漏れてしまうことも
あるかもしれない。
だいたい、なんで二人のために周囲がそんな気を使わなくてはならないのか。

私たちは周囲に秘密にする一方で、
自分たちにも制限を設けた。
極力仕事のことを話題にしない、である。
それが100% 完璧に制限できていたかは疑わしいが、
我々二人にとっても守るべきメリットがあった。

いつか別れてしまうかもしれなかったから。


よくある恋愛漫画であれば、その恋は生涯最後の一生に一度の恋であり、
冬であればソナタ、夏であればタッチ、秋であれば文化祭、春であれば……まぁいい。
しかし完璧に続く恋ばかりが現実ではない。
マッキーももう恋なんてしないなんて言わないのか言ってるのかわからないぐらい混乱している。
ていうかそもそも私は結婚を失敗しているのである。
もう女なんて信じないなんて、言わないよ絶対なんて絶対言えないくらいに猜疑心の塊である。

それから……
第一話で書いた通りの始まり方である。
運命とかではない。入学式も体育祭も文化祭も経ていない。
彼女からしてみたら、「離婚した数日後に交際を申し込んでくる尻の軽い男」である。
チャラい。
圧倒的にチャラく見える。ホストばりのちゃらさである。
「あんた、そう言って他の女も口説いてるでしょう?」


色んな始まり方があっていい、恋愛は。
誠実でなくてもいい、チャラくてもいい、打算があってもいい、体目当てでもいい。
合コンで始まってもいい、ネットで知り合ってもいい、見合いでもいい、親が決めてもいい。
みんな「君に届け」に毒されすぎている。
あれを「ピュア」と呼ぶことは明らかな誤りである。
無垢は、イノセントは、興味本位で虫の羽をむしる子供の瞳である。
純真さとは、たまたま学区が一緒だった異性に(同性でもいいけど)操を捧げることではない。
純真さとは本来、疑わなさ、信心深さであるから、
たまに気持ちがすれ違う二人とかの、あのドキドキのシーンは既に「ピュア」ではない。
何の話だったっけ?


色んな始まり方があっていいと思うのだけれど、
それが「信頼関係」に至るためには時間がいる。
積み重ねがいる。実績がいる。
だから最初から「好き。あなたを信じてついていきます」はむしろおかしい。
最初はお互い、探りながらである。
この人は信頼に足るか、何かを託すに足るか、ずっと付き合うことがありえるのか、
付き合いながら評価、審査していくのが本来の恋愛である。

そこに確信が生まれるまでは、別れる、という可能性を常に意識することになる。
私と彼女が別れたらどうなるか。
仕事がやりにくくなるだろう。
周囲も気を使うだろう。
ひどい別れ方をしてしまった場合、最悪、彼女が職場を変えてしまうかもしれない。
派遣契約は三ヶ月、準委任契約は半年。契約更新制である。
法的には、契約更新のタイミングで人を入れ替えたり仕事を見なおしたりできる。

色んなリスクが、オフィスラブの別れにはついてまわる。
そして私たちの始まり方は、さみしさと興味本位からである。
確信を持てない二人の選択肢は自ずとひとつになること、わかっていただけただろうか。



■キャラであったため

まぁ、後は、そういうキャラ、ということである。
私は「女房に逃げられた三枚目持てないキャラ」に甘んじていた。
彼女としては、そのような三枚目キャラに籠絡された、とは
プライドが許さない側面があった。

ほぼストーカーのように追い回されて付き合うことになった相手であるから、
「いつか別れてやる」
と実際に言いながらの付き合いだったのである。


しかし、信頼と実績は積み重ねである。
私自身、よもや自分が再婚することになるとは思っていなかったが、
この人となら、と、思えるようになったのである。
それは彼女も同様であったのだろう。


……「バツひとつぐらいどうってことない」と時折のたまう危険な彼女だが。
私は次はバツ2つ目、スーパーマリオの場合完全に水際である。
もう二度とバツがつかないように暮らしていきたいものである。


(つづく)