消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

僕とネコと再婚物語~その3~

ライク・ア・ローリングストーン


「この場所を離れるのはイヤよね…」
「…つまり引越しには反対だって言ってんだな?」
「犬は人につくけど、猫は場所につくのよ」
「でも家賃高いんだよ、ここは。お前が稼いでくれるならいいんだけどよ」
「ネコはニャートよ」

ニャート。
ネコの世界で、働かずに自由気ままに生きるものの総称。
餌だけ食ってゴロゴロしている。一説には人生の七割は寝ているという。
人間の世界ではニートは問題とされるが、ネコの世界では一般的である。
むしろ正しいライフスタイルとされている。
ネコが稼ぐ気配は無い。


元嫁はニートではなかったが、
家には全く金を入れなかった。
稼ぎがどの程度あったのか知らない。
最初の頃に交わした種々の約束は徐々に改訂され、
最終的に元嫁の負担はゼロ円になった。
家賃光熱費保険代、全部僕が払っていた。

別にそれは構わないのだが、元嫁は経済感覚の桁が異なる女だった。
新宿伊勢丹にバーゲン以外で行くような女である。
何の記念日でも無い日にヴィトンをねだられたことがある。
もちろん買ってやった。
なぜか。男にも、そういう種族がいるのである。

古語でいう、「貢君」。
貢ぐこと、金をその子のために使ってやることに人生意義を見出し
費やすことを「愛を注ぐ」とかんがえる種族である。
最近ではアイドル、AKB48 などに注ぐ姿が目撃されている。

僕もそういう、いわばドラッグに溺れたジャンキーとなっていたのである。
モノ、金を注ぐと、ごくごく平易に安易に
「ありがとう」「大好き」を得ることができる。
これは祖父母が孫にものを買い与える心理とほぼ同等である。
頭を使ったり工夫したりテクニックを駆使すること、
ではなく
最も単純に、
「愛し愛され」欲求を満たすことができるのが「金」であり「プレゼント」であり「貢ぐ」ことなのだ。
それは楽しい。キャバクラと同じ発想である。
銭さえ続けば、カネを使うこと、注ぐことは麻薬的な楽しみがあるのである。


僕はそんなに貢ぐ体質では元来無く、
どちらかと言うと、母のしつけも有り、吝嗇傾向にあった。
元嫁は甘やかされて育ったこともあり、生来の(あるいは後天的鍛錬による)
魔女的な資質を、すでに出会う前から開花させており、
大学時代あたりから「尽くされる女」「尽くしたくなる女」として君臨していた。
多くの男達の財布の紐を焦がし続けてきたのである。

結婚当初取り決めた生活費、貯蓄の約束は早々に反故にされてゆく一方で、
「良いマンションに住みたい」
「良い立地に住みたい」
「ワンビースほしい(クロエの)」
などといったリビドーのほとばしりに対して、彼女はなんら悪びれる気配を示さなかった。
僕は徐々に感化されていき、
少しずつであるが確実に「貢君」体質に調教されていった。
最終的にSK- に手を出した頃には、
僕は毎月の赤字をボーナスで補填する自転車操業を行っていた。
(高いんですよー…SK-供


「これはイカン」
月次の一般サラリーマンの給与では補填できない赤字が膨らみ、
それをなんとかボーナスで帳尻をつける運営。
経理の健全化が必要である、と考えた僕は、
やはりこういう時の常、小さなことをコツコツと、ではなく、
大型の負債事項で手っ取り早く改善する方法を考えた。

高額な家賃の健全化。
月収の3分の1位内が限界値と一般には言われているのだが、
その当時の私は、手取りの実に半分以上を家賃にあてがっていた。
ここの健全化は早急かつ切実な事項であった。

しかし、である。
どの程度金額を節減することができたら意味があるだろうか。
引越し費用を考えると単純に1万2万の差額では効果はない。
東京には更新費というボディーブローのようなシステムがあるのだが、
これを考慮すると2年、できれば1年以内に費用対効果を出したくなる。
引越し代を5万、敷金と礼金と不動産屋の手数料がでっかく乗っかり、
細かいがネット等の解約と再契約、自分自身の人件費を積み上げていき
年間12ヶ月で「売上」を実感できる金額となると、
月額5万ぐらいの「減額」がなければ割にあわない計算となる。

今の(その当時の)生活水準から5万円の減額。
贅沢が身に沁みている元嫁には無理な相談であった。
もちろん、スポイルしているつもりだった僕だって、実のところはスポイルされていた。
僕自身、簡単に生活レベルを下げる気持ちになれなかった。

そして…既婚者の方々にはようようお分かりいただけると思うが、
毎日嫁の愚痴を聞くような羽目だけには、なりたくなかった。
そうなるくらいなら月額5万の赤字が何であろう。

こうして会社と家庭で「波風立てない」タイプの係長が誕生する。


そしてさらにもう一つの要素。
ネコ。
ネコ可の賃貸物件はそれほど潤沢であるわけではない。
また、ペットを買う場合は敷金が倍額になることが多い。
そして当然、退去時にその敷金が戻ってくることはほとんど望めない。
ネコは、我々を癒してくれる一方で、
明らかな「負担」でもあったのである。


しかし、「ネコ可賃貸」物件がゼロであるわけでもない。
元嫁とのすったもんだの離婚劇のあと、
僕はこの大型負債案件、「家賃」にメスを入れることができるようになった。
反対する嫁もいない。
毎日不満を言う嫁もいない。
「ネコは家につくニャー!」
と引っ越しに反対するネコもいたが、知ったことではない。無理やり連れて行けばいい。


かくして、僕の離婚後引っ越し計画が進められることとなった。
離婚から2ヶ月、残暑がそろそろ落ち着いてきている時期であった。


さて僕はどこに引っ越したらいいだろうか。
物件自体は、もう、住めればいい、というレベルである。
どうせ残業残業の毎日で、帰って寝るだけの家である。
若いころに傾きかけた、川沿いのおんぼろアパートに住んでいたことを思い出せば、
どんな安物件だろうと行きていける気がした。

考えるべきは、立地、駅である。


当然通勤を考慮して、通勤に都合がいい立地…駅…
駅からの距離…家賃…ネコ…

それから、もう一つ要素に加えるとしたらなんだろう?
……「恋人」、ではなかろうか。


前々回書いたとおり、僕は離婚早々ある女性を口説き
なし崩し的に捕まえていたわけであったが、
彼女側としては「なんか離婚した面白いおっさん」という程度の認識であった。
一応週末が来る度になんかしら理由をつけてあっていたが、
彼女側には「付き合ってる」という認識は希薄であった。
いや、それどころではない。明確に、意志を込めて「付き合ってない」と言われていた。
バツイチネコ付きを面白がっているだけであって、恋人ではない、というのである。


まぁ、それは彼女側の言い分である。
例えば、情況証拠を積み上げていったらどうだろう?
彼女の「付き合ってるわけじゃない」って言葉以外のすべてのことが、
恋人同士にしか見えない状況が出来上がっていたら…

それはもう、意志や認識の問題ではなく、「付き合ってるという状況」ではないだろうか?

「あたしが好きなタイプは向井理玉木宏であって、南海キャンディーズのY ちゃん(匿名)みたいな顔ではない」
彼女がそんなこと言うもんだから、
僕も積極的に向井理を意識して取り入れていった。
例えば、友人知人らに「向井理」と呼ばせてみたり。
こうなったらほら、もう恋人になるのに障壁なんかないじゃないか。


恋人同士なんだから、近くに住んだらいいんじゃないか。



さて。
賢明な読者諸氏におかれましては、わざわざ解説する必要もないかと思いますが、
念の為に精神分析させていただきます。
「典型的なストーカー発想」
となります。

「彼女と僕はもう付き合ってるとしか見えない状況で毎週会ってるし食事にも行くし
彼女の好きなタイプにあわせて努力しているし近くにいた方が何かと便利だし」

そうですね。完全かつ純粋に「ストーカー」ですね。
「付き合ってない」と明言している女性に対して、
「イヤイヤイヤイヤイヤそんなはずはない」と言いより、
常軌を逸した行為(ひと駅隣に引っ越して家まで自転車で来る、とか)を始めるなんて
まぁまずもって間違いなく典型的な「ストーキング行為」ですわな。
彼女が訴えてたら厳重注意されてたかもわかりません。

まぁ…彼女もイヤイヤと言いながらも、好きのうち、だったのでしょう……
まぁそれを確認する術はもはやありませんが。
(嫁より注釈:「ストーカーでした。訴えたら勝てたと思います」)



かくして私は、金銭的事情により転居することを決め、
恋人的事情により、引越し先のエリアを決めたのでありました。

恋人(予定)の家まで自転車で30分。ひと駅。
まぁ、程よい距離ですよね。スープの冷めない距離、といいますか。

(つづく)