消えかかる記憶の寝言3

渡るつもりなんてなかったのに、人生常々渡り鳥。カトウリュウタの寄港地ブログ。

村上春樹「騎士団長殺し」を読んでの雑記

2019/2/11

村上春樹騎士団長殺し」を読んでの雑記


村上春樹の、1Q84 から7年ぶりの長編、「騎士団長殺し」を読んだ。
このブログは、あまり「読書感想文」という体のものではない。
どちらかというと、「読んだけれどその時はインフルエンザに家族で罹患してて…」という、
騎士団長殺しを読んだ時期の日記のようなもの、だ。
だから中身にも基本触れない。

中身には基本触れないけれども、どうしても触れておきたいのは、
前半、300ページほどは「信じられないほど退屈な小説」で、
しかしある瞬間から突然物語が動き出し、あとは怒涛の、
(そしてとても村上春樹らしい展開を経て)
読み応えのある小説であった、という感想だ。
この感想はもちろん私の個人的なものではあるけれども、
とにかく強烈に感じたことなので個人的なブログにこうして書き残しておく。

前半部分は(全体の30%ほどは)、
「え? これほんとに村上春樹が書いたの? なんなの? この下手くそな構成」
と、読んでるその場でも何度か苛つきながら読んだ。
たまたま凄まじく時間が余っている日々の中で読んだので読み進めたが、
普段の子育てと仕事の中であったら、そのまま放置して二度と手にしないくらいの苛立ちがあった。
なんというか、エピソードのひとつひとつが「後出しジャンケン」のように感じられるはまりの悪さであった。
「どうしてその話を最初のときにしておかないの?」
と何度も思わされた。
妹がいたエピソードや、白いスバル・フォレスターの男と出会う、謎の女との出会いのくだりだ。

多分、しかし、それは私が少し年をとって頑迷になった証拠なんじゃないか、と思う。
年をとって心と脳みそが頑なになってくると(しなびて固くて流動性を失ってくると)
得られた情報だけを「全部」としてしまう傾向が出てくることを、私はなんとなく感じていた。
そこで語られた要素が、そのエピソードの全部なんだ、と勝手に決めつけてしまう頑迷さ。
騎士団長殺しの主人公は東北を車で当て所なく旅をする、
そのエピソードが最も序章のあたりで数ページ描かれるのだけれど、
そこで描かれた記述でもって、東北の旅の全てはここに書かれている、
と思いこんでしまったのだ。
だから、その中で重要なイベントがあったことを100ページも後で追記されると、
「なんなんだ、後から!」
と腹を立ててしまった。
なんでだろう。これが老化なんだろうか。

ただ、構成と演出とバランスが悪い(少なくとも、良くない)とは思う。
後出しジャンケンが悪いわけがない(詰め込める情報は必ずいつも限られている)。
ハルキニストを気取れるほど読み込んでいるわけではないけれど、なんとなく、
村上春樹らしいスマートさとかっこよさを持っていない文体に感じられた。
300ページ。短くはない。

しかし物語が動き出してからは、とても楽しく興味深く読むことができた。
ぐんぐんと引き込まれて目が離せなくなり、
はてなマークが浮かぶお決まりの、村上春樹らしさに翻弄させられながら、
思いの外収まりよく完結したことに、大きな満足感を得た。
「色彩をなくした多崎つくると彼の巡礼の年」よりは、よほどに、よほどに完結している。

とても、「ねじまき鳥クロニクル」を思わせた。
第二次世界大戦に絡む描写が出てくる点と、離婚の点、井戸のような暗い穴、なんかも。
そして「免色渉」という名前が、「綿矢ノボル」を思わせる文字配列であるところは…偶然だろうか?
しかしそんな相違点をあら捜しする必要はない。
作中のある有名画家の、素晴らしい作品に描かれているイデアとメタファーが、
なんだか可愛らしくおちゃらけたキャラクターとして登場するこの作品には、
間違いなく独特の楽しさがある。
この…前半の300ページの苦痛がなければ、羊をめぐる冒険ダンス・ダンス・ダンスのように再読繰り返したいほどだが…
けれども、こうして読破したことで、また頭から読み直したら、
退屈だった前半にも輝きが見いだせるかもしれない。
少なくとも間違いなく、プロローグには大きな意味を感じることができるようにはなった。
(これだって取ってつけたようなエピソードではあったけれども)

退屈な前半、
興味深い後半。
この感想を、個人的にブログに書きとどめておきたかった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~
当作品、
2017年2月24日刊行とのことなので、丁度2年を経てから読んだことになる。
旧来から、文庫本で読むことを私は好むので、発行直後に読むことはこれまでも無かったのだけれども、
最近は本をPDF 化、電子書籍化することが本の管理上多く、
新書の分厚いままで買うことになった。
…やはり重たかったけれども、文庫本発売の報はまだ入っていない。

インフルエンザに、罹患した。
2/4(月)に娘が発熱し、病院で陽性判定を受けた。
翌日2/5 に私、続いて妻が2/6。
加藤家は全滅し、出社禁止で家に閉じ込められた。
5日間の出社禁止、土日に加え三連休まであるので、相当長期な休暇となってしまった。
しかし予防接種をしていたためか、私だけは症状が異様に軽く、元気で仕方がない。
嫁と娘が倒れていたので休暇前半は看病に追われたが、
時間を持て余し、買い置いていた「騎士団長殺し」を手にとった。

読む時間が取れるとは思えなかったので先に貸しておいた父親の言によると、
「作者には、このような傾向の作品を書かねばならない使命感があるのかねぇ」
と、似たような作品だということをほのめかしつつ、
「明らかに一人だけ、実在の画家を登場人物にしているけれど、なんでだろう?」
と言っていた。
小田原に移り住んだ「井上三綱」という画家だろうか?(ハルキストの間で話題らしい)。
あるいは「安田靫彦」。
なぜこれらの作家がモチーフになったのか(ほんとにモチーフなのか)、
わからないけれど興味深い。

村上春樹自身がインタビューに答えた言葉もあるようで読んでみたけれど、
それはそれとして別のお楽しみ。
ひとまずは、面白い本を読了できた。また7年後に新作が出ることを楽しみにしておこう。